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「ふうん…じゃあ、もう君が毒を盛られる心配は無いんだね?」
陽だまり邸のサルーンでニクスが用意した紅茶と茶菓子を味わいながら、ジェイドはほっとしたように笑う。
ニクスが毒を盛られそうになっていた現場に偶然居合わせた事があった彼は、ずっと心配していた。
そして、陰ながら犯人探しを手伝ってくれてもいたのだ。
心から心配してくれた彼に、少々申し訳無さそうにニクスは答える。
「それが……どうやら私と彼を共倒れさせたい輩がいるようでしてね。その方々はどうやら、新政府の重要ポストを狙っているようです。彼が言うには、その連中が彼の名を騙って私に毒を盛ろうとしたそうです。それでもこれまで泳がせておいたのは、どうやら私がヨルゴ氏と関わる真意を知るためだったようですね」
「それじゃあ…まだ命が危険だって事かい?」
悲しげな表情のジェイドに紅茶のお代わりを勧めながら、ニクスは微笑んで告げた。
「私なら大丈夫ですよジェイド。少なくともあの舞踏会の一件で、味方が増えましたし……現状を変える為に、最も心強い味方がね。いずれは教団側の方々にもお話せねばと思っていたところですし、丁度良かったのですよ」
ニクスはジェイドとテーブルを挟んで向こう側のソファに腰掛けると、紅茶を一口飲み込む。
「それに財団と教団両方から目を付けられれば、彼らはそう簡単には手が出せなくなりますから。心配なのは寧ろ私よりも彼やレイン君、ヒュウガやヨルゴ氏の方でしょう」
「ヨルゴや君の昔の友達は分かるけど……なんでレインやヒュウガまで?」
「二人共多忙を極めていますからね。特にレイン君の場合、体を壊しはしないかと心配しているのですよ」
ジェイドは紅茶のカップをテーブルに置くと、困ったように笑う彼に、心から仲間を心配する眼差しで告げる。
「それなんだけどねニクス、俺は二人から君の事を頼まれてるんだ。君が今のアルカディアで一番忙しくしてるって、寝る間も惜しんであちこち駆け回ってて心配だって………」
「……………そう、ですか…あの二人が……」
それだけ呟いて、ニクスは紅茶を優雅な動きで喉に流し込む。
仲間たちの心配に、十分過ぎる程心当たりがあった。
彼が寝る間も惜しんでアルカディア中を駆け回り、色々と手を尽くしているのは紛れも無い事実。
生きている内に、アンジェリークの為に出来る限りの事を――決してそれだけではない理由があった。
ニクスは空になった自分のカップに代わりの紅茶を注ぎ、慎重に言葉を選ぶ。
「……大丈夫ですよ。忙しくしているお蔭でその分、短い時間でも熟睡出来てますし。全くお休みをとって無い訳ではありませんから………夢だってよく見るのですよ?」
納得しかねているジェイドに上品な微笑みを向けながら、ニクスは続く言葉を飲み込んだ。
それは、ニクスが眠らない…否、眠りたくない最大の理由。
(そう。とても悪い夢を……ね)
この頃頻繁に悪い夢を見るようになった――エレボスの核にされていたあの頃と同じか、それ以上の。
自分で、自分を殺す夢。それは二百年生きてきた間で数え切れない程見てきた分、まだマシな方で。
決してその夢に慣れる事は無いが、それに近いものはあるかもしれない。
もっと恐ろしく、目を背けたくなるのは……………自分が、他ならぬアンジェリークを、手にかける夢。
夢の中のニクスは酷く残忍な笑みで、彼女の細く白い首に両手をかけ、ゆっくりと絞めていた。
その感触があまりに現実的で、慌てて飛び起きて夢と悟っては安堵する日々を送っていたのだ。
眠るたびにどうしても見てしまう悪夢を見たくなくて、出来る限り起きている時間を増やした。
結果として、短い睡眠時間で夢さえ見ない程熟睡出来ているのだが―――…
そこまで考えた時、ニクスの視界が暗転した。
「ニクス!?」
慌てて立ち上がるジェイドの声を最後に、ニクスの意識は完全に途切れた………
〜5に続きます〜
2007.7.24 UP
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